3.医師と鍼灸

目   次

3-1 鍼灸についての医師の卒前教育

3-2 鍼灸についての医師の卒後教育

3-3 医師の鍼灸臨床

3-4 医療施設での鍼灸

 

3-1 鍼灸についての医師の卒前教育

3-1-1 医師卒前教育における鍼灸教育   ― モデル・コア・カリキュラムと鍼灸 -

  • モデル・コア・カリキュラム1)とは、学生が卒業時までの6年間に身に付けておくべき、必須の実践的診療能力(知識・技能・態度)を、明確化し記載したもので、各大学が策定する「カリキュラム」の「コア」の部分を抽出し、「モデル」として体系的に整理している。各大学の具体的な医学教育は、学修時間数の3分の2程度を目安にモデル・コア・カリキュラムを参考し、残りの3分の1程度の内容は各大学が自主的に編成する。
  • モデル・コア・カリキュラムの本文には「F-2-8) 薬物治療の基本原理、学修目標、⑬漢方医学の特徴や、主な和漢薬(漢方薬)の適応、薬理作用を概説できる。」と漢方医学、漢方薬の記載はあるが、鍼灸の記載はない。「参考資料2、医療・福祉系職種の概要と国家試験科目、19.はり師 20.きゅう師」に根拠法、定義、試験科目(領域/大項目)が記載されている。
  • 卒業後に実施される医師臨床研修2)は医学教育モデル・コア・カリキュラムに整合するよう到達目標、方略、評価の見直しがおこなわれた。

文献
1)モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会、モデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委員会、医学教育モデル・コア・カリキュラム(平成28年度改訂版)、文部科学省
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/06/28/1383961_01.pdf (2021-04-12)

2)医道審議会医師分科会医師臨床研修部会報告書 -医師臨床研修制度の見直しについて- 平成 30 年 3 月 30 日、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10803000-Iseikyoku-Ijika/0000200863.pdf (2021-01-27)

 

 

3-1-2 鍼教育を実施している医学部の数、比率

文 献
1) 鶴岡 優子, 鶴岡 浩樹, 梶井 英治. 全国医学部における相補代替医療教育の現状 追跡調査1999-2004.医学教育.2005;36 ( 5) :323-8 https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan1970/36/5/36_5_323/_pdf/-char/ja   (2021-1-22)
2) 形井秀一 医学部漢方教育の中の鍼灸 社会鍼灸学研究 2011(通巻6号)P1-4

 

 

3-1-3 灸教育を実施している医学部の数、比率

調査によると、鍼灸を導入している20大学中、11大学(56%)の教育コマ数は1コマで、最も多いコマ数の大学は6コマで1校であった。

文 献
1)形井秀一 医学部漢方教育の中の鍼灸 社会鍼灸学研究 2011(通巻6号)P1-4

 

 

3-2 鍼灸についての医師の卒後教育

3-2-1 医師臨床研修

平成 16年から医師法第16条の2により、臨床研修が必修化された。医師国家試験に合格し、医師免許証を取得後、診療に従事しようとする医師は、2 年以上、臨床研修を受けなければならない1)。厚生労働省は臨床研修の到達目標(行動目標、経験目標)2)や方略・評価3)などを定めているが、漢方、湯液、鍼、灸についての記載はない。

文献
1)医師法(昭和23年法律第201号)e-Gov法令検索、総務省
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000201 (2021年1月27日)
2)別添 臨床研修の到達目標、厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/rinsyo/keii/030818/030818b.html  (2021年1月27日)
3)医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令の施行について、 医政発第0612004号、平成15年 6月12日(一部改正 平成28年7月 1日)、厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/455.pdf (2021年1月27日)

 

 

3-2-2 臨床研修前後の鍼灸のアンケート

方法
鍼灸教育前の医学部4年生117人を対象にアンケートを実施し、卒業後2年間の臨床研修期間の終わりに、連絡先が確認できた93人の研修医に郵便アンケートによる追跡調査を実施し、鍼灸に対する意識を比較検討した。

結果
72人(4%)から、医学部4年生時と比較できる回答を得た。研修期間中に鍼灸を学ぶ機会があった研修医は3人(4%)であった。
鍼灸を学ぶ機会が与えらなかった研修医の68人中32人(47%)は研修期間中に鍼灸を学びたいと回答した。
研修医の鍼灸への関心は4年生の時より低下し、積極的に鍼灸師を患者に紹介するという回答も、医学部4年時は23人(36%)が4人(6%)に大幅に減少し、4年生の時にはなかった「鍼灸をすすめない」という回答が10人(16%)あった。

考察、結語
2年間の医師の臨床研修により鍼灸を臨床に取り入れようとする考えは低下している。

文献
Nakada Y, Takashi M, Arai K, Arai M. Medical residents’ interest in and current status of Japanese postgraduate education in acupuncture and moxibustion: a follow-up survey. Acupunct Med. 2017; 35(4): 297-302.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5561359/

 

3-2-3 日本東洋医学会専門医認定制度

日本の医師免許を有し、医籍登録後6年以上経過した者で、3年以上日本東洋医学会会員で、日本専門医制評価・認定機構が定めた基本領域に属する学会の専門医または認定医に認定された後、日本東洋医学会指定研修施設で3年以上の漢方医学の臨床研修を行うなどの一定の条件を満たし、2次の審査を合格すると、日本東洋医学会の漢方専門医の認定を受けることができる制度1)がある。
指定研修施設での研修は研修コアカリキュラム、研修マニュアルに沿って実施される2)。研修コアカリキュラムでは、到達目標をR1,R2 の 2 段階(R1:理解し経験する必要がある。R2:理解または経験することが望ましい)に設定し、鍼灸(1.病態把握、2.経絡.経穴、3.適応・禁忌、4治療、5.安全性)はR2となっている3)

文 献
1)専門医認定制度・認定医認定制度について、日本東洋医学会
http://www.jsom.or.jp/medical/specialist/system.html (2021-02-16)
2)一般社団法人 日本東洋医学会 専門医制度基本規程、平成31年2月24日一部改正
http://www.jsom.or.jp/universally/doctor/pdf/regulations.pdf (2021-02-16)
3)研修コアカリキュラム、日本東洋医学会
http://www.jsom.or.jp/universally/doctor/pdf/training_curriculum.pdf (2021-02-16)

 

3-3 医師の鍼灸臨床

3-3-1 医師が鍼灸診療している割合

2010年の文献2)の調査では、鍼灸治療に対する態度についての4択の設問に対し、4%は鍼灸治療を実施、4%は鍼灸の専門家を紹介、75%は患者が鍼灸治療を受けたい場合は鍼灸を勧め、17%は原則として鍼灸を勧めないと回答した。

文 献
1) 安野 富美子,藤井 亮輔,石崎 直人. 医療機関内での鍼灸療法の実態調査(上) -2010年度調査結果より- .医道の日本. 2011 ;818:167-76 
2) Shin-ichi Muramatsu, Masakazu Aihara, Ihane Shimizu, Makoto Arai, Eiji Kajii, Current Status of Kampo Medicine in Community Health Care, General Medicine.2012; 13 (1) : 37-45
3) Kenji Fujiwara, Jiro Imanishi, Satoko Watanabe, Kotaro Ozasa, and Kumi Sakurada, Changes in Attitudes of Japanese Doctors toward Complementary and Alternative Medicine—Comparison of Surveys in 1999 and 2005 in Kyoto, Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, Volume 2011 (2011), Article ID 608921, 7 pages
4) Satoko Watanabe, Jiro Imanishi, Masako Satoh, Kotaro Ozasa, Unique Place of Kampo (Japanese Traditional Medicine) in Complementary and Alternative Medicine: A Survey of Doctors Belonging to the Regional Medical Association in Japan, The Tohoku Journal of Experimental Medicine,2001; 194 (1): 55-63

 

3-4 医療施設での鍼灸

3-4-1 医療施設での鍼灸施術の実施率

文献1)の調査によると、鍼灸療法を行っている診療科(部門)はリハビリテーション科が最も多く、次いで整形外科であった。また、院内で鍼灸療法を実施している病院で、医師が鍼灸療法の担当者との回答は15%であった。

文献
1)矢野忠,安野富美子,藤井亮輔,鍋田智之,石崎直人.一般病院における鍼灸療法の実施状況について.医道の日本.2012.71(10).174-86
2)高梨 知揚, 西村 桂一, 前田 樹海, 辻内 琢也.緩和ケア病棟を有する医療機関での鍼灸治療の実態調査.Palliative Care Research.2015.10(1).329-33
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/10/1/10_329/_pdf/-char/ja (2021-04-14)
3)安野 富美子,藤井 亮輔,石崎 直人,福田文彦,川喜田健司,山下 仁,他、医療機関内での鍼灸療法の実態調査(上) -2010年度調査結果より- .医道の日本. 2011 ;818:167-76
4)櫻庭 陽, 向井 雄高, 桝田 文八. 三重県の透析施設を対象とした鍼治療に関するアンケート調査.全日本鍼灸学会雑誌.2010.60 (2).209-15
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/60/2/60_2_209/_pdf/-char/ja (2021-04-14)

 

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