5-4 医療専門職の鍼

目次

5-4-1 がんに伴う症状に対する各医療専門職の鍼施術の比較

5-4-2 精神科医療での鍼

5-4-3 理学療法士の鍼

5-4-4 助産師の鍼

5-4-5 カロリンスカ研究所の医療鍼(Medical Acupuncture)のシラバスより

5-4-6 大学病院外科部門の医療従事者の補完代替療法に関する知識の調査

 

5-4-1 がんに伴う症状に対する各医療専門職の鍼施術の比較

  • 腫瘍治療の現場で、鍼臨床をおこなう医療専門職の実態を調査するため、スウェーデンの全国に分布する「スウェーデン腫瘍学会」の会員医師、「がん看護専門看護師」、「腫瘍学と緩和ケア部門の理学療法士」、そして医療制度外で施術をする「スウェーデン鍼協会」の鍼師の合計835人に郵送でアンケートをおこなった。
  • 回答者数は555人(医師133人、看護師177人、理学療法士133人、鍼師117人)で回答率は66%であった。
  • 教育の質問の回答者541人中、鍼治療の教育を受けたと回答したのは218人40%(医師2%、看護師8%、理学療法士65%、はり師97%)であった。
  • 臨床の質問の回答者530人中、がん患者の鍼施術をしたことがあると回答したのは194人、37%(医師4%、看護師6%、理学療法士56%、はり師90%)であった。医師2名と鍼師4名は鍼の教育を受けずに鍼施術をおこなっていた。
  • 10の症状について鍼が有効と考えるかについての質問では、癌性疼痛についは、職種間に差はなく98%~89%が、鍼は有効と回答したが、放射線療法誘発性悪心、モルヒネ誘発悪心などの9症状については、鍼が有効との回答は職種間で有意差があった。
  • 結論:専門職の職種により鍼の教育、臨床、有効性に対する考え方が異なっているため、科学的根拠に基づくガイドランに従って鍼を提供することを検討することが望ましい。

文献
1)Anna Efverman. Implementation of Acupuncture in Routine Oncology Care: A Comparison of Physicians’, Nurses’, Physiotherapists’ and Acupuncturists’ Practice and Beliefs. Integrative Cancer Therapies. 2022; 21: 1–10
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/15347354221132834  (2023-05-31)

 

5-4-2 精神科医療での鍼

  • 精神医学的ケアとしてどのような補完代替医療(CAM)がどのような目的で使用されているかを調査するため、精神症状を治療する施設の責任者にアンケート調査が行われた。調査は2019年6月にスウェーデン全国の精神症状のある人を治療する施設(政府、自治体、民間)の責任者の1,934のアドレスに電子メールでアンケートを送信し、実施した。回答がない場合は2週間後と8月に催促メールが2回送信された。 
  • 調査対象者に届いたと思われるアンケ―ト1,228の内、489から回答があり、回答率は40%であった。回答した施設は自治体の施設が374、民間の施設が101、国立の施設が14であった。回答した施設の62%がCAM を使用していた。最も使用していたCAMはマインドフルネスで、43% 208施設で使用していた。鍼治療は19% 92施設で使用されていた。鍼治療については83施設が耳鍼を、11施設が体鍼を使用していた。CAMが使用された症状は不安、睡眠障害、うつなどで、CAMを使用した理由は症状の緩和、患者の要求、投薬の削減などあった。「使用しているCAMについて、エビデンスレベルはどの程度と認識しているか」の質問に対して最も多い回答は「知らない」であった。
  • 153施設(31%)が1つまたはそれ以上のCAMの使用を中止していた。最も多い理由は教育を受けた専門家の不足と56施設が回答した。次いで、エビデンスベースの不足と回答した施設は26で、この理由で中断されたCAMで最も多いのは鍼治療(9施設)であった。
  • 精神医学的ケアにおけるCAMについての自由記述には、CAMに批判的な意見では、CAMは非科学的である。東洋のスピリチャリティまたは宗教と関連することが信頼性を落としている。耳鍼は治療的処置よりも一時的な軽減を与える看護のようで、耳鍼治療群の長期的な効果が期待できないので、耳鍼を中止することを検討している。などの意見があった。
  • CAMを支持する意見では、鍼治療はうつを軽減することが知られており、鎮静薬や抗不安薬の使用を減らし、抗うつ薬の副作用を軽減することから、鍼治療は興味深い選択肢である。CAMは安価で副作用がなく、非薬物的で、患者と医師の治療的関係を改善し、グループ活動の時の共同体意識につなげる補完的ケアである。従来のケアに CAM を追加すると、早く回復し、自己調整能力が向上した。などの意見があった。
  • CAMを中断した2番目の理由がエビデンスの不足であるが、使用しているCAMのエビデンスの強さについての質問では知らないとの回答が最も多かったことから、CAMに関するさらなる研究と CAM の利点とリスクに関する医療専門職への教育が必要であることを裏付けている。また、CAMと医療の区別は明確でなく、鍼についても、伝統的な中医学の思想に基づいた中医学鍼施術者の鍼でなく、西洋医学を基礎とする医療専門職による国のガイドラインに基づいた鍼施術は補完療法よりも医療と考えられる。」と著者は考察している。

文献
1)Maria Wemrell, Anna Olsson, Kajsa Landgren. The Use of Complementary and Alternative Medicine (CAM) in Psychiatric Units in Sweden. Issues in Mental Health Nursing.2020: 946-957
https://doi.org/10.1080/01612840.2020.1744203  (2023-05-31)

 

5-4-3 理学療法士の鍼

  • プライマリケアで最も一般的な運動器疾患(腰痛、頚部痛、肩峰下疼痛)の患者に、公的医療制度で雇用されている理学療法師がどのような治療介入を行っているか調査した。
  • スウエーデン西部のヴェストラ・イェータランド県(国内で2番目に人口が多い県)のプライマリケアで雇用されている理学療法師に、情報技術部門より提供された電子メールアドレスにアンケートを送付し、非特異的亜急性腰痛、非特異的亜急性頚部痛、肩峰下疼痛に対する質問の回答は匿名で、オンラインで行われた。
  • 419名の理学療法士にアンケートが送付され、271名から回答が有り、回答率は65%であった。回答者の75%は女性で、40歳以上が60%で、73%は5年以上の臨床経験を有していた。2/3は学士で5%は大学院教育を受けていた。
  • 亜急性腰痛に対する最も頻度の高い介入は、姿勢に関する助言(94%)、活動に対する助言(92%)で安定化運動(82%)であった。鍼施術は約30%であった。
  • 亜急性頚部痛に対する最も頻度の高い介入は、姿勢に関する助言(96%)、活動に対する助言(86%)で関節可動域訓練(80%)であった。鍼施術は約40%であった。
  • 肩峰下疼痛に対する最も頻度の高い介入は、関節可動域訓練(92%)、姿勢に関する助言(84%)、安定化運動(65%)であった。鍼施術は約50%であった。
  • 亜急性腰痛に対して鍼と電気療法(経皮的電気神経刺激療法)が回答者の1/3で使用されていたが、鍼はシステマティックレビューによればエビデンスがなく、経皮的電気神経刺激療法もエビデンスが乏しいと考察している。
  • 肩峰下疼痛に対して回答者の約半数が鍼施術を使用していたが、いくつかの適切に実施されたランダム化比較試験により中等度のエビデンスが示されている。肩峰下疼痛に対するエビデンスに基づく介入はプライマリケアの勤務経験年数と正の相関が有り、5年以上の経験者はエビデンスに基づく介入を実践する可能性が高く、新卒者はほとんど鍼施術を実施していないと考察している。
  • 最も良く用いられる介入はエビデンスにより裏付けられていたが、有効性についてエビデンスがない介入や不明な介入もかなり行われていた。このことは、今後理学療法における臨床研究がさらに必要であることを示していると結論を述べている。

文献
1)Susanne Bernhardsson, Birgitta Öberg, Kajsa Johansson, Per Nilsen and Maria E. H. Larsson. Clinical practice in line with evidence? A survey among primary care physiotherapists in western Sweden. Journal of Evaluation in Clinical Practice. 2015; 21(6):1169-1177

 

5-4-4 助産師の鍼

5-4-4-1 助産師の鍼に関する規制、管理

  • スウェーデンの助産師は科学的知識と臨床試験に基づいた経験を根拠とする鍼施術に限り、臨床で鍼を用いることが許可されている。助産師が鍼施術を始めるには、鍼の理論と実習を含む教育課程を受講する必要がある。しかし、この鍼の教育課程の期間や内容は様々で、質の保証や管理の対象となっていない。また、国は助産師が鍼を使用することを、監督していない。助産師の養成期間中には鍼の臨床教育はなく、助産師の継続的な卒後研修として編成されている。医療従事者の教育課程と卒後教育はスウェーデン高等教育庁により管理されているが、大学以外で実施される教育については管理されない。鍼など保管代替医療の教育のほとんどは、個人または企業により編成され、各医療施設が教育パッケージは適正であるかを判断している1)2)

 

5-4-4-2 産科病棟での助産婦の鍼の使用についての調査

  • 2007年に、スウエーデンの助産婦ケアにおける鍼の使用などの調査のため、50の産科病棟の助産師に対して郵送でアンケートが行われ、45施設から回答があった(回収率90%)。
  • 調査によると、スウエーデンの産科で、鍼によるケアを実施している年数の範囲は1~20年、平均11.3年。2006年の1年間、女性の平均13.3%に対して鍼が使用された。平均すると助産師の75.5%が何らかの鍼の教育を受けていた。
  • 鍼が最も使用されたのは、出産に関連する領域で、分娩中のリラックス (97.8%)、分娩中の痛みの軽減 (97.8%)、胎盤遺残 (82.2%)が鍼の適応と回答された。(%)は鍼の適応と回答した施設の割合。
  • 10年間に鍼の使用が減少傾向にあるかとの質問に対し、45施設中40施設が「はい」、5施設が「いいえ」と回答した。鍼の使用が減少する主な2つの理由は、継続的な教育がないことによる助産師の鍼の知識不足と妊産婦の鍼需要の減少傾向であった。
  • 著者は、鍼は助産ケアにおけるエビデンスが弱いあるいはないにもかかわらず、スウエーデンの産科病棟で多くの症状などに広く使用されていると述べている1)

 

5-4-4-3 助産師に対する鍼教育の調査

  • 前述した50の産科病棟での鍼による助産婦ケアの調査で、確認できた鍼の教育者18人にアンケート調査を2008年に実施し、16 人が(89%)が回答した。
  • 最も多い回答は、指導者は助産師で学位はなく、鍼の基礎教育期間の日数の範囲は1~ 25 日、平均3.7日であった。鍼の教育は通常、質の管理はされず、大学外で実施されているため、高価であり(スウェーデンの大学、大学院教育は無料)、教育内容はエビデンスに乏しい。著者は助産師のための鍼の継続的専門教育は、(大学院レベルが一般的な)助産学学習プログラムと同じ学問レベルで提供されるべきと結論づけている2)

文献
1) Lena Mårtensson, Linda J. Kvist, Evelyn Hermansson. A national survey of how acupuncture is currently used in midwifery care at Swedish maternity units. Midwifery. 2011; 27(1): 87-92.
2)Mårtensson, L. M., Kvist, LI., & Hermansson, E. National survey of how acupuncture education is organised for Swedish midwives. Midwifery. 2011; 27(1): 93-98.

 

5-4-5  カロリンスカ研究所*の医療鍼(Medical Acupuncture)のシラバスより

課程の名称:医療鍼。
単位数:15単位
領域:臨床医科学領域
レベル:修士課程
部門:神経生物学・ケアサイエンス・社会部門
決定日時:2011-03-21
最終改訂:2021-05-27
受講資格:最低120単位と保険福祉庁が発行した作業療法士、理学療法士、医師、看護師、歯科医の開業免許。または保険福祉庁が発行したnaprapath(スウエーデン固有の手技療法師)またはカイロプラクターの開業免許の取得。スウエーデン語と英語の習熟度が指定されたレベルにあること。
目的:臨床で疼痛患者の治療法として医療鍼を統合できる技能を習得する。
知識と理解:課程修了後、次のことができる。
  ●生理学の視点から痛みの原因と調節を説明できる。
  ●医療鍼が神経系をどのように調節し、生理学的な影響を与えるかを説明できる。
  ●刺激量、適応と禁忌、リスク、法的観点、医療記録の保持について説明、実践できる。
  ●生理学的視点から治療原則を批判的に説明、評価できる。
能力:課程を修了すると、受講者は次のことができる。
  ●痛みの状態を分類し、痛みの測定と評価の原則を適用して得られた臨床所見と痛みの生理学に基づいた選択肢を説明することがでる。
  ●さまざまな痛みの状態の患者に対して、マニュアル鍼または電気鍼による治療を単独で計画、実施、評価できる。
判断とアプローチ:課程を修了すると次のことができる。
  ●痛みの体験や鍼治療の計画・実施に影響を与える性別、年齢、生理的・心理的要因などを左右する患者の個人差を考慮することができる。
  ●鍼の科学論文を分析し計画と成績を評価、反映できる。
内容:課程は次の4つから構成されている。
  1. 疼痛の生理学 3単位
  2. 医療鍼:生理学と治療法 4単位
  3. 応用実習と症例検討 5単位
  4. 課題論文 3単位

注 *カロリンスカ研究所は保健科学と生命科学の10のグローバルマスタープログラム(英語による大学院修士課程教育)と1学士課程が設置されている医科大学であり、スウエーデン最大の医科学研究センター。カロリンスカ研究所はノーベル賞の生理学・医学賞の選考機関としても知られている。

文献
1)Course syllabus for Medical Acupuncture, 15 credits. Karolinska Institutet
https://education.ki.se/course-syllabus-pdf/2QA177/en (2022-11-17)

 

 

5-4-6 大学病院外科部門の医療従事者の補完代替療法に関する知識の調査

  • スウェーデンの大学病院外科部門の医療従事者に対して補完代替療法(CAM:complementary and alternative medicine ) に関する知識を調査することを目的に、2010 年 3 月から 2011年4月の間に、スウェーデンの大学病院の全てである7大学病院の71外科病棟の部門責任者に調査を依頼し、医療従事者(医師、看護師、理学療法士、栄養士)にアンケートが配布されアンケ-ト調査が行われた。
  • 合計 1,757 のアンケートが送付され、737 (42.0%) の回答があった。回答者の平均年齢は40.3歳、職種は看護師が最も多かった(70.4%)。
  • 回答者は21の治療法またはケアを従来型医療、補完療法、代替療法、統合医療、または未知の療法に分類した。統合療法に明確に分類された治療法はなく、鍼・指圧(acupuncture/acupressure)と精神療法のみが 統合医療に分類した回答者が25% を超えていた。
  • 治療法を患者に紹介するかの質問では、治療法のリストに入っていた従来型医療(精神療法、看護、理学療法、作業療法)と共にマッサージ、鍼・指圧が40%を超える推奨される治療法と回答された。今回の調査で、マッサージ、鍼・指圧が回答で最も言及された一般的な療法であった。
  • 回答者の95.3%が、CAMに関する知識は乏しいまたは無いと答え、CAMに関する知識は重要と80.9%が回答した。回答者の8.5%がCAMの教育を受け、回答者の1.8%が臨床でCAMを使用していた。理学療法士は他の医療従事者よりCAMの教育を受け(34.5%)、CAMを臨床で使用していた(10.2%)。回答者の半数以上(55.8%)がCAMの領域を学習することに肯定的であった。
  • 患者から医療従事者にCAMに関して尋ねることはほとんどなく、医療従事者から患者とCAMについて話し合うこともほとんどないと回答されたことから、患者との CAM の使用に関するコミュニケーションレベルは低いことが示された。
  • 著者は、スウェーデンの外科部門の医療従事者はCAM およびCAM研究に関する知識は欠如しているが、CAMに関する知識を得ることは重要と認識していると結論している。

文献
1)Kristofer Bjerså, Elisabet Stener Victorin & Monika Fagevik Olsén. Knowledge about complementary, alternative and integrative medicine (CAM) among registered health care providers in Swedish surgical care: a national survey among university hospitals. BMC Complementary and Alternative Medicine, 2012;12(4)
http://www.biomedcentral.com/1472-6882/12/42 (2023-05-31)

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