5.ナイジェリアの鍼：理学療法としての鍼

目　次

５-１ナイジェリア医療リハビリテーションセラピスト(登録) 委員会

５-２ ナイジェリアの理学療法士

５-３ナイジェリアの疼痛管理のための国家ガイドライン 2018

５-４ 理学療法士と鍼

５-５ 変形性膝関節症に対してナイジェリア理学療法士が使用する治療法の調査

５-６鍼が理学療法士の治療法として知られているか（アンケート調査より）

 

 

 

５-１ナイジェリア医療リハビリテーションセラピスト(登録) 委員会
Medical Rehabilitation Therapists (Registration) Board of Nigeria (MRTB)

    • 1992年よりナイジェリアの医療リハビリテーションセラピストの監督および認可(免許発行)機関として役割を果たしている連邦保健省管轄の準政府機関。
    • 2000年にカイロプラクターとオステオパシー医は別の委員会/評議会に移行したため､委員会(MRTB)は理学療法､作業療法､言語療法､臨床聴覚学の教育と臨床を規制･管理する責任を負っている｡
    • 委員会の登録者の90%以上が理学療法の専門家で､約2千人の理学療法士と63人の理学療法技術者が属している｡次に多い職種が作業療法で､作業療法士29人が登録され､86人の技術者が臨床をおこなっている｡
    • 委員会(MRTB)発行の専門分野の免許をもたずに医療リハビリテーションセラピストの仕事に従事することは違法であり､法律により処罰を受ける｡
    • 法律により専門分野の臨床に従事する者は､合法的に臨床を行うため､毎年年初に免許を更新することが求められている｡
    • 委員会の主要な法的機能は次の通り｡専門職の登録者の知識と技術の基準の決定､専門職試験の実施､試験合格者に学位またはディプロマの授与､登録者の登録簿の作成･維持､医療現場の臨床の規制と管理､医療リハビリテーションの教育と臨床のためのプログラムの認定､教育と臨床施設の登録と監視､継続的専門能力開発(CPD)の実施など｡

文献
1)Welcome to the MRTB. Medical Rehabilitation Therapists (Registration) Board of Nigeria. https://www.mrtb.gov.ng/en/Welcome (2024-11-2)
2)History of the MRTB Nijeria. Medical Rehabilitation Therapists (Registration) Board of Nigeria. https://www.mrtb.gov.ng/en/about-mrtb/history-of-MRTB　(2024-11-26)
3)Statutory functions of the Board. Medical Rehabilitation Therapists (Registration) Board of Nigeria. https://www.mrtb.gov.ng/en/about-mrtb/Statutory-Functions-of-the-Board (2024-11-26)

 

５-２ ナイジェリアの理学療法士

  • 理学療法士の教育は､MRTBにより認定された大学で､5年間の理学療法学士課程で教育されている｡
  • 大学と専門委員会の試験に合格した新卒者は認定病院で1年間のインターシップを終了後､MRTBに登録し､ライセンスを取得する｡(ライセンス取得まで､5年間の大学教育と1年間のインターシップで合計6年間必要)
  • ライセンスは毎年年初に更新が求められており､毎年30単位以上の継続的専門能力開発 (CPD) プログラムを受講してライセンスの更新申請をする｡(ライセンスの有効期間は1年)
  • 公衆衛生部門では､理学療法は二次病院(総合病院)､三次病院(大学病院)で行われており､公立医療施設の患者が理学療法を受けるには､多くの場合､医師の紹介が必要｡
  • しかし､患者は理学療法士に直接アクセス可能で､医師など他の医療専門家を介さずに理学療法士に直接依頼し､サービスを受けることができる｡
  • 理学療法士は臨床上の自主性が有り､患者の評価､診断､治療､予防サービスを提供でき､他の医療サービスへの紹介ができる｡国内では病院や教育機関での雇用から､個人開業が増加している｡海外へは､英国､米国､カナダに大学教員､臨床医､研究者としてかなりの数が流出し､またサウジアラビアや南アフリカで雇用されている｡

文献
1)Medical Rehabilitation Therapists (Registration) Board of Nigeria (MRTB). https://www.mrtb.gov.ng/en/ (2024-11-6)
2)Nigeria Society of Physiotherapy.   https://nsphysio.org/ (2024-11-6)
3)Nigeria. Physiopedia. https://www.physio-pedia.com/Nigeria# (2024-11-6)

 

 

５-３ナイジェリアの疼痛管理のための国家ガイドライン 2018

  • 疼痛緩和を必要とする患者の疼痛管理に従事する医療従事者と介護者に情報に基づいたガイダンスを提供するために連邦保健省により2018年作成されたガイドラインに､鍼が記述されている｡
  • 急性疼痛の非薬理学的介入として､術後痛で鍼が記載されている｡
  • 慢性疼痛の非薬理学的介入として､関節炎､腰痛､線維筋痛症､鎌状赤血球症､末梢神経障害で鍼が記載されている｡

文献
1)GUIDELINES FOR THE MANAGEMENT OF PAIN IN NIGERIA. Federal Ministry of Health Nigeria 2018. https://www.unodc.org/conig/uploads/documents/Guidelines_for_Pain_Mgt_-_Copy_Presented_to_NCH_-20_June_2018_-_FINAL_COPY_-_NEW.pdf (2024-11-8)

 

 

５-４ 理学療法士と鍼

  • 理学療法士が一般的に行う治療に､電気鍼療法(electro-acupuncture)が記載されている1)｡
  • ｢鍼治療は､TENSとは異なり､ナイジェリアではそれほど人気､利用可能性､受容性を獲得していない｡｣と理学療法士が執筆した鍼の臨床研究論文の記載がある2)｡
  • ナイジェリア医学的リハビリテーション療法士(登録)委員会(MRTB)から、継続的専門能力開発(CPD)のポイントとして、認定された理学療法士を限定した鍼の実践的な認定コースが開催されている｡例:　3日間の認定コースでは､参加者は事前に提供された教材により事前学習をおこない､講習会ではデモと自分自身をモデルとして鍼実技を実施｡コース終了後､6例の症例報告を提出すると認定される3)｡
  • 一部の大学では､理学療法士のための鍼やドライニードルの履修証明課程が開設された4)5)｡
  • ナイジェリア理学療法学会の下位専門領域に鍼治療グループがある｡4)
  • ナイジェリア理学療法学会(NSP)や大学その他の学術団体は､生涯教育としてワークショップなど鍼の教育を実施している5)6)｡

文献
1)The Physiotherapy Profession. Nigeria Physiotherapy Network. https://www.nigeriaphysio.net/en/About-Us/The-Physiotherapy-Profession(2024-11-22)
2) Ganiyu Sokunbi, Usman Mohammad Bello. Comparison of the effects of Acupuncture and Acupuncture like TENS on Osteoarthritis of the Knee Among Adult Nigerians. Nigerian Journal of Experimental and Clinical Biosciences. 2016 ; 4(1): 26-33. https://journals.lww.com/necp/fulltext/2016/04010/comparison_of_the_effects_of_acaupuncture_and.5.aspx (2024-11-26)
3)Hands On Acupuncture Certification Course FAQ. PhysioCraft. https://physiocraft.com/acupuncturefaq/ (2024-11-26)
4)Balogun, Joseph. Complementary and Alternative Medical Practice in Nigeria. The Nigerian Healthcare System. 2021: 213 – 233. Springer International Publishing
5)Professor Sokunbi Ganiyu Oluwaleke. https://staff.run.edu.ng/media/2700540058415.doc (2024-11-22)
6)One day Workshop. Nigeria Society of Physiotherapy.   https://nsphysio.org/press-releases/one-day-workshop (2024-11-22)

 

 

５-５ 変形性膝関節症に対してナイジェリア理学療法士が使用する治療法の調査

―　21.3%が鍼治療を使用すると回答　―

  • ナイジェリア全土の私立､二次､三次病院で勤務するナイジェリアでの臨床経験が1年以上あり､有効なライセンスを保持している理学療法士に対して､変形性膝関節症の症例を記載した自記式質問票により､どのような治療を行うかを質問し､臨床ガイドラインにしたがっているか調査した｡
  • 質問紙が配布された400名の内､回答したのは267名(回答率8%)で､回答者255名(95.5%)は政府所有の公立病院で勤務していた｡
  • 最も多く使用されるのは温熱療法(n=230，86.1%)ついで運動療法(n=217， 81.3%)で運動療法は他の治療法と組み合わせて使用されていた｡鍼療法の使用はn=57，21.3%であった｡
  • 治療方法を決定した理由は文献からのエビデンス(59.2%)､既知のスキル(32.5%)､使用できること(8.3%)などであった｡
  • ナイジェリアの理学療法士の間で､変形性膝関節症の管理についてのコンセンサスが乏しいので､ナイジェリアにおける変形性膝関節症の管理に関する臨床ガイドラインの作成を検討する必要があると結論づけている｡

文献
Olusola Ayanniyi, Roseline F. Egwu, Ade F. Adeniyi. Physiotherapy management of knee osteoarthritis in Nigeria—A survey of self-reported treatment preferences. Hong Kong Physiotherapy Journal 2017; 36: 1-9. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S101370251530018X (2024-11-26)

 

 

 

５-６鍼が理学療法士の治療法として知られているか（アンケート調査より）

1)ナイジェリアの大学医学部の学部生に対する調査1)

  • 4年から最終学年の医学部の学生366名(医療放射線科119名､内科･外科101名､医療検査科70名､看護科学科68名など)に理学療法の治療手段を示し､理学療法士の治療法かを｢はい/いいえ｣で回答するなど､理学療法の知識と認識を問うアンケートを手渡し､当日回収した｡調査対象の平均年齢は24±3.75歳､男性198人(54.1%)､女性168人(45.9%)であった｡
  • 鍼(Acupuncture)を理学療法士の治療手段と知っていたのは医療放射線科9%､内科･外科33.7%､医療検査科28.6%､看護科学科33.8%であった｡牽引を理学療法士の治療と回答したのは､医療放射線科22.7%､内科･外科29.7%､医療検査科25.7%､看護科学科41.2%であった｡

2)医療ジャーナリストに対する調査2)

  • ナイジェリアのラゴス在住の53人の医療ジャーナリストに理学療法に関する知識や認識を自記式質問票により調査した｡回答したのは50人(回答率94%)で､回答者の平均年齢は37.08 歳で､最終学歴は大多数が学士であった｡
  • 提示された治療法が理学療法士の治療法かをはい/いいえで回答する質問では､鍼(Acupuncture)が理学療法士の治療と回答したのは23人46%であった｡手技/牽引を理学療法士の治療と回答したのは19人38%であった｡

(補足)
理学療法は､人間の機能と運動に関係する医療専門職で3)､ナイジェリアの理学療法士は日本より業務範囲が広く､専門分野では小児､女性の健康､オンコロジー(oncology)なども有り､治療法も手術､局所薬物投与､腱移植なども行える2)｡

文献
1)Ebuka Miracle Anieto, Rita Ativie, Chinelo J. Okafor, Joshua Agono, Valentine Onah, Uchenna Ogu,Ijeoma Blessing Nwadilibe, Michael Ebe Kalu. Knowledge and Perception of Physiotherapy among Clinical Students in Various Health Care Disciplines of a Nigerian College of Medicine and Health Sciences. Indian Journal of Physiotherapy and Occupational Therapy. 2019; 13(3): 185-190. https://ijpot.com/scripts/IJPOT%20July-Sept%202019.pdf#page=192 (2024-11-26)
2)Udoka Arinze Chris Okafor, Oluwakemi Iyanuoluwa Olawoye, Saturday Nicholas Oghumu, Michael Taiwo Alade, & Oluwaleke Ganiyu Sokunbi. Knowledge, Perception and Media Reporting of Physiotherapy and Physiotherapy-related Issues among Healthcare Journalists in Lagos, Nigeria. Bayero Journal of Evidence-Based Physiotherapy. 2020; 6(1): 370-380
 

 

 

ページの先頭へ

前のページへ

ホームページへ