目 次 Contents
7-1. 米軍で鍼が広まった経緯
Acupuncture in the U.S Armed Forces: A Brief History and Review of Current Educational Approachesから
米軍では、1965年に2人の軍医がベトナムの病院で鍼を使用した報告がある。鍼が広く知られるようになったのは、医師のための鍼(medical acupuncture)の研修を受けた放射線腫瘍医であるNiemtzowが、1995年に空軍病院に初めての鍼のクリニック(military medical acupuncture clinic)を設置して、高い評価を得たことによる。国防総省乳癌カンファレンスで行った乳癌に対する鍼の役割の講義が好評となり、Niemtzowは、国防総省の最初の常勤の軍医の鍼施術者(military medical acupuncturist)になり、2002年にはAndrews空軍基地に常設の医師の鍼診療所(medical acupuncture clinic)の開設が認められた。ここで、Niemtzowらは複合性疼痛症候群の鍼の効果を啓発普及させ、空軍軍医総監の注目を浴び、帰還兵の疼痛管理に用いられるようになり、さらに、2009年には44名の軍医の鍼施術者に対して試行的な教育プログラムが行われるようになった。空軍、陸軍、海軍からこの講習会に派遣された受講生は、広い領域で医学の専門家として活動した。
この試行的なプログラムにより、鍼の効果として評価されたのは①鎮痛 ②戦場での麻薬性鎮痛薬依存の改善 ③戦場のひどい負傷者に対する外傷性脳損傷の早期判断の促進など。そして、これらにより、様々な環境の配属先で医学の補助として鍼を実践的に用いることになった。
現在では、戦場などの環境に対応できるよう教育内容を調整した300時間の鍼の基本的な生涯教育が軍医に行われている。空軍では、さらに医療業務の中で、神経構造を基礎としたバトルフィールドアキュパンクチャー(battlefield acupuncture*)の技術を含めた短時間の教育が行われている。軍人保健科学大学医学校の4年の医学生は、現代軍陣医学での鍼の役割を体験している。また、選択科目としてAndrews空軍基地の補完代替医療クリニックでの教育が行われている。
文献
Arnyce R. Pock. Acupuncture in the U.S Armed Forces: A Brief History and Review of Current Educational Approaches. Medical Acupuncture. 2011;23(4):205-8
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=4&ved=0ahUKEwjImviskM7QAhWJvrwKHTV4BqsQFgg3MAM&url=http%3A%2F%2Fwww.dtic.mil%2Fcgi-bin%2FGetTRDoc%3FAD%3DADA554535&usg=AFQjCNHQgD5oe2lBZ1ZWGpzcBgYkfBZWPg&sig2=KoDtAYIU-TdoLrHTO6jyEA&bvm=bv.139782543,d.dGc (2016-11-30)
(補足)*バトルフィールド・アキュパンクチャー(battlefield acupuncture)
空軍の軍医であるColonel Niemtzowが2001年に名付けた鍼法で、疼痛管理に有用として知られている耳の部位に鍼を行う。耳は戦場や病床で刺鍼しやすく、即効のため、米軍軍医を対象とした鍼の生涯教育の中でも教育されている。
参考文献
Richard C. Niemtzow. Battlefield Acupuncture. Medical Acupuncture. 2007;19(4):225-8
http://online.liebertpub.com/doi/pdf/10.1089/acu.2007.0603 (2016-11-29)
7-2. 米軍医療施設での鍼の利用
Valerie F. Williams, Leslie L. Clark, Mark G. McNellis. Use of Complementary Health Approaches at Military Treatment Facilities, Active
Component, U.S. Armed Forces, 2010–2015. Medical Surveillance Monthly Report. 2016;23(7):9-22 からの引用
http://www.health.mil/Military-Health-Topics/Health-Readiness/Armed-Forces-Health-Surveillance-Branch/Reports-and-Publications/Medical-Surveillance-Monthly-Report/View-Past-Reports (2016-11-29)
方法
調査期間は2010年1月1日から2015年12月31日。米国陸軍、海軍、空軍、海兵隊に属する個人を対象に、防衛医療監視システムに保存された調査期間の入院・外来記録を調査した。システムでは補完代替医療の処置は鍼、カイロプラクティック/オステオパシー、バイオフィードバック)に分類されて記録されている。分析は米軍医療施設の受診に限定して分析しており、民間施設の受診は含まれていない。
結果
6年間で、米軍医療施設を受療した2,410,729 人中の14.9%(358.394人)が補完代替医療の処置を受けていた。12.8% 307,897人がカイロプラクティック/オステオパシーを受け、約2%、46,950人が鍼を受けていた(図7-1)。
鍼の受療回数(1年間100人あたりの受療回数)は2010年から2015年にかけて4倍に増加していた(図7-2)。年齢が高い(図7-3)、軍の階級が高い、教育レベルが高い(図7-4)ほど、鍼の受療の割合が高く、軍隊内では、女性およびヘルスケア関連の職種の受療が高かった。
合計240の軍施設の内、78.8%で鍼を処置していた。また、鍼の受療が多い上位20施設で鍼受療の76.7%を占めていた。
鍼受療者の最初の診断名で最も多いのは「その他、特定不能の背部疾患」25.8%、第2位は「急性、慢性疼痛」10.4%であった。第3位は「適応反応」7.4%であった。
図7-1 米軍医療施設での補完代替処置の受療者数(2010年ー2015年) 引用文献のTABLE 2より作成
図7-2 米軍医療施設での鍼受療回数の経時変化 引用文献のTABLE 4より作成
図7-3 米軍医療施設での年齢階級別の施設受療者に対する鍼受療者の割合(2010ー2015) 引用文献のTABLE 2より作成
図7-4 米軍医療施設の受療者の教育レベル別鍼受療の割合(2010年ー2015年) 引用文献のTABLE 2より作成